第41回 日本栄養治療学会 原口 言語聴覚士

 

 

初の全国学会で、ワークショップでの口演と討議に参加し、緊張のあまり食事も喉を通りませんでしたが、大変有意義で貴重な経験をしました。普段の臨床で言語聴覚士の視点から不自由を感じる点を中心に、もしドラえもんに頼めるならといった自由な発想で未来の医療機器の姿を論じてきました。諸兄から是非とも実現をと力強いエールとアドバイスを頂いたので、今後ライフワークに組み込んでいきたいと思います。


言語聴覚士セッションからの学び
学会では、ワークショップ:「臨床栄養における言語聴覚士の展望~構音障害・音声障害・認知機能障害・聴覚障害に着目して~」言語聴覚士のセッションで勉強してきました。嚥下機能と栄養との関連は容易に想像がつきます。しかし、発声機能、認知機能との関連は考慮する機会はなかなかありません。今回の学会では、関連性が示唆され今後検討の余地があることが学べました。今後の臨床では、嚥下機能以外の評価項目の関連性を、自分なりに考察していきたいと思いました。

臨床栄養における認知機能障害の可能性と展望
低栄養はリハビリテーションにおける重要な予後規定因子であり、死亡率や再入院率の上昇、ADL(Activities of Daily Living)能力の改善を阻害するなど、機能回復を妨げる要因として位置づけられる。言語聴覚士が関わる認知機能および高次脳機能に、低栄養はどのように影響を及ぼすだろうか。先行研究では両者の関連性が示唆されており、脳卒中患者の低栄養は認知FIM(Functional Independence Measure)と関連することや、地域在住高齢者では低栄養と軽度認知障害(MCI)が関連することなどが報告されている。これらの知見は、低栄養が認知機能および高次脳機能の改善を阻害し、ADL能力を含めたリハビリテーション全体の成果にも悪影響を及ぼす可能性を示すものといえる。
認知機能・高次脳機能は、注意・記憶・遂行・言語など多様な機能を包含する複合的概念であり、適切な評価および解釈には高い専門性が求められる。
当院は地域医療の最前線に位置付けられ、認知機能低下による低栄養患者がしばしば見受けられる。しかし、認知機能低下が著しく回復が困難なケースは少なくない。低下予防、低栄養をきたす認知機能のボーダーライン等の今後検討の余地があり、地域医療の一端に必要な内容であった。

「話す」と「食べる」をつなぐ-栄養を踏まえたリスクの統合マネジメント-
「話す(発話)」機能と「食べる(摂食嚥下)」機能は、口腔・咽頭機能という共通の基盤を有し、全身の栄養状態やフレイル、サルコペニアと相互に影響し合う。構音機能と栄養状態の関連性に着目し、両者を統合的に捉える臨床的視点の重要性について考察する。
加齢に伴う鼻咽腔共鳴の変化や、サルコペニアが舌圧や咽頭筋機能に及ぼす影響を示した先行研究を概観する。これらを踏まえ、臨床で実践可能なアプローチとして、初期評価における着眼点と多職種連携のあり方を示す。評価においては、オーラルディアドコキネシス、最大舌圧測定といった口腔機能評価に加え、MNA-SFなどの栄養スクリーニング、およびブローイング法や聴覚的評価による鼻咽腔閉鎖機能(開鼻声)の確認を組み合わせることの有用性を述べる。さらに、評価結果に基づき、言語聴覚士が他職種と連携し、構音訓練と栄養改善を並行して進めるアプローチを考察する。介入効果の評価では、発話明瞭度などの構音機能の変化と、舌圧や体重といった身体的指標を統合的に捉えることの重要性を強調する。構音機能の評価・介入において栄養の視点を取り入れることは、摂食嚥下障害のみならず、コミュニケーション障害のリスク管理においても重要である。
構音動作が摂食機能の改善に関連しているということは以前より理解していた点ではあった。しかし栄養評価を加えることにより、コミュニケーション能力改善にも繋がるという学びがあった。今後の臨床では体重等のデータを参照し、構音訓練に繋げたい。

臨床栄養における音声障害・聴覚障害の可能性と展望
臨床栄養の領域では、嚥下機能と栄養状態の関連は多く報告されてきた。一方で、音声障害や聴覚障害との関係については十分に検討されておらず、今後の発展が期待される。これらの機能は「話す」「聞く」などのコミュニケーションを支える基盤であり、その低下は活動量や社会的交流の減少、摂食意欲低下に伴い低栄養やフレイルを助長する可能性がある。脳血管疾患患者において栄養指標と嗄声の重症度が関連することや、サルコペニア性嚥下障害に嗄声を合併する例が多いことが報告されている。音声障害は嚥下機能や全身の筋機能低下と並行してみられる臨床的特徴の一つである。音声リハビリは、呼吸と喉頭の協調を整え、適切な姿勢を保ちつつ喉頭筋を強化することで安定した呼気流を確保し、発声持久力の向上に繋がる。これらの変化は嚥下機能や活動量の向上により、サルコペニアやフイルの予防・改善にも寄与し、患者の生活の質を支える重要な介入となる。一方、聴覚障害は高齢者におけるフレイル、認知機能低下、社会的孤立と深く関わることが知られている。近年では、食事パターンや栄養素摂取が聴覚機能の維持に関与する可能性も報告されており、聴覚支援と栄養支援を組み合わせた包括的なアプローチの有用性が示唆されている。補聴支援や聴覚リハビリ、環境調整を通じて外出や交流の機会が増え、食事場面や医療的介入等におけるコミュニケーションが円滑になることが期待される。音声・聴覚機能の維持や回復を通じて、患者の生活機能や社会的活動を支える取り組みはすでに臨床現場で重要な役割を果たしている。今後は、言語聴覚士が音声や聴覚の専門家としての役割をより明確に発信し、これらの障害をもつ患者にも栄養支援の必要性を多職種と共有していくことが求められる。併せて、音声・聴覚障害と栄養状態や栄養治療との関連について研究を重ね、エビデンスを構築していくことが今後の課題である。
音声分野について、コミュニケーションの側面での介入しか考慮していなかった。しかし、本発表にて発声障害がサルコペニア・フレイルに関連していることを理解し、患者のコミュニケーション機会の獲得の必要性に改めて気づかされた。今後の研究に期待したい。

外傷患者における認知機能障害と栄養障害の関連に関する単施設後ろ向きコホート研究
外傷患者における入院後の認知機能障害と栄養障害の関連は明らかでない。言語聴覚士が嚥下評価とともに認知機能評価も行っており、入院中に行った認知機能評価の結果と入退院時の栄養状態の関連を検討した。外傷入院患者の約半数に認知機能障害(HSD-R20点以下)を認めた。入院時には認知機能障害の有無で栄養状態の差はみられなかったが、退院時には認知機能障害あり群でより低値となっていた。言語聴覚士による認知機能評価は、栄養障害リスクの早期把握に有用となる可能性が示唆された
外傷による認知機能低下からも低栄養に繋がるという内容。このことからも、認知機能と栄養とのつながりは大きいことがわかる。認知機能評価は今後の低栄養リスクの一つの指標になりうる。

構音発達期の舌小帯短縮症術後における構音訓練と食行動変化の関連性
舌小帯短縮症に対する舌小帯切開術を新生児期から実施しているが、構音発達期にあたる3歳以降に手術を実施した児には、術後に言語聴覚士による構音訓練を外来で行っている。訓練後は、構音障害が改善するケースが多いが、保護者から食行動の変化に関するコメントが聞かれるケースもある。乳児期の舌小帯短縮症は舌の可動域制限による哺乳障害を生じるとされているが、幼児期以降の食行動に関する報告は少ない。今回、舌小帯短縮症児の術後の食行動変化について検討した。食行動の変化はすべてが良好な変化であり、舌の操作や筋力の改善を通じて咀嚼や食塊形成といった食行動も改善したと考えられた。一方で、食行動の変化を構音検査の点数のみで関連付けることは難しく、構音点別の誤り数など詳細な検討を要すると考えられた。舌小帯短縮症児の構音訓練は構音障害改善に加え、間接的に栄養摂取の改善にも寄与する可能性があり、舌小帯短縮症児に対する言語聴覚士の介入が臨床栄養の観点からも意義を持つことが示唆された。
舌小帯短縮症は一般的に舌尖音の歪が報告されているが、今回は奥舌音にみられた点が興味深い。初回形成には、舌の可動域が必要不可欠であることが改めて学べた発表であり、舌動作の評価を見直す機会となった。

歌唱を用いた口腔体操講座を受講した高齢者における最長発声持続時間の短縮とフレイルとの関連
地域在住高齢者の栄養状態(食事・口腔機能)、身体活動、社会参加の維持向上を目的に、筆頭演者(言語聴覚士)が作詞・作曲・振付した「パタカラ音頭」を用いた口腔体操講座を、管理栄養士、公認心理師などと多職種で開催する取り組みを始めた。ここでは最長発声持続時間(MPT)とフレイルとの関連を明らかにする。MPT短縮はフレイル(体力・社会)および嚥下機能低下と関連し、MPT<14秒は要注意の可能性が示唆された。今後、言語聴覚士が多職種と連携し、講座継続を通じた社会参加支援および発声訓練が、フレイルの予防・改善に寄与し得るかを検証する必要がある。
コミュニケーション能力の改善の為、歌唱を用いることはしばしばある。MPTがフレイルと嚥下機能低下と関連する可能性があると示唆された点は興味深く、今後の臨床の際によりMPTに注目する良い機会となった。